忍法帖読書雑記

山田風太郎先生の忍法帖シリーズについて書きます

忍法忠臣蔵

初出

週刊漫画サンデー」1961年11月25日号〜1962年4月21日号連載

あらすじ

元禄14年、松の廊下刃傷事件により、浅野家は断絶。家臣たちが仇討ちを画策する中、吉良の長男、上杉綱憲は父を守るため、赤穂浪士暗殺を能登組忍者に命じる。上杉家家臣、千坂兵部は赤穂浪士暗殺は世情の反感を買い、上杉家の名を落とすと考え、無明綱太郎と能登組くノ一に能登組忍者による赤穂浪士暗殺の阻止と赤穂浪士を色仕掛けで堕落させ、仇討ちを阻止を命じた。

時代

元禄14〜15年(1701〜1702年)

主な出来事

登場人物(無明家)

無明 綱太郎(むみょう つなたろう)

伊賀忍者の末裔。17の時、鍔隠れの里で忍術を学ぶ。父の跡を継ぎ、大奥御広敷に勤めるが、事件を起こし、上杉家の食客となる。多彩な忍術の使い手であり、名前のない術として、紙でものを包丁のように斬る、髪を薙いで作った黒い網を鞭として扱う、菊の花びらを操り、発火させる、火の網を投げるなどがある。やる気になれば、ひとりで赤穂浪士四十七人を二、三日で倒せるほどの力があるらしい。

忍法:蜘蛛の糸巻(くものいとまき)

唾液の糸で作った粘着力のある網を口から吐き出し、敵を絡め捉える。

忍法:鵞毛落とし(がもうおとし)

何百羽もの水鳥を操り、羽毛の渦で敵を包み込む。

忍法:浮寝鳥(うきねどり)

体重をなくす術。枯蓮の上を歩ける。

無明 伝左衛門(むみょう でんざえもん)

無明綱太郎の伯父。大奥御広敷添番。

登場人物(能登組忍者)

上杉謙信の代から上杉家に使える忍者軍団。上杉綱憲から赤穂浪士暗殺の命を受ける。

瓜連 兵三郎(うりつら ひょうざぶろう)

黒い紙を蝶に変え、操る。毒粉をとばしたり、蝶と糸を結び、盗聴する。

浪打 丈之進(なみうち じょうのしん)

忍法、血虫陣の使い手。両腕がない。

忍法:血虫陣

体内に虫を飼い、それを吐き出し、操る。虫は血を吸い、敵を失血させる。

鴉谷 笑兵衛(からすや しょうべえ)

忍法、偕老同穴の使い手。

偕老同穴(かいろうどうけつ)

海綿で作った人形を操る。人形は水を吸い、人間の大きさに巨大化する。

万 軍記(よろず ぐんき)

忍法、南北杖の使い手。術で敵の武器を奪い、毒を塗った扇でとどめを刺す。

忍法:南北杖(なんぼくじょう)

杖から磁力を発し、刀を奪う。

白糸 錠閑(しらいと じょうかん)

骨を軟骨化し、体の大きさを変える術を使い、竹の中に潜む。

鍬形 半之丞(くわがた はんのじょう)

忍法、金剛網の使い手。

忍法:金剛網(こんごうもう)

四人で網を張り、網を通過したものを両断する。一度の使用で、術者の寿命が三年縮むらしい。

折壁 弁之助(おりかべ べんのすけ)

忍法、金剛網の使い手。

月ノ輪 求馬(つきのわ もとめ)

忍法、金剛網の使い手。

女坂 半内(めのさか はんない)

忍法、金剛網の使い手。

穴目 銭十郎(あなめ せんじゅうろう)

忍法、一ノ胴の使い手。

忍法:一ノ胴(いちのどう)

体を鉛に変え、刃による攻撃を無効化する。

登場人物(能登組くノ一)

千坂兵部から赤穂浪士を色道に堕とし、仇討ちをやめさせるよう命を受ける。

お琴(おこと)

忍法、おんな灯心で奥野将監を誘惑する。粘性の唾で出血を止めることができる。

忍法:おんな灯心(おんなとうしん)

交わった男の男根が無限の性欲に支配され、女を犯し続けてしまうようになる。男根を切断すると術から逃れられる。

お弓(おゆみ)

忍法、歓喜天で進藤源四郎と矢頭右衛門七を誘惑する。

忍法:浮舟(うきふね)

体重をなくす術。伊賀忍法、浮寝鳥と同じ。

忍法:歓喜天(かんぎてん)

交わった男と女の体が入れ替わる術。再度、交わると、入れ替わった男女の体は元に戻る。

お桐(おきり)

吉原の遊女になりすまし、忍法、摩羅蠟で大石内蔵助を誘惑する。

忍法:摩羅蠟(まらろう)

交わった男の性器と自身の性器を血管で結合し、離れられなくする。

お梁(おりょう

針を吹き込むと、被術者は交合時に針が経穴から噴出し、交合相手を殺傷する術で、田中貞四郎を貶める。

お杉(おすぎ)

胎児の幻覚を見せる術で、高田郡兵衛を貶める。

鞆絵(ともえ)

貧困により、身を売った赤穂浪士の身内である五人の女を詰め込んだ長持を上杉綱憲に献上し、毛利小平太に見せる。

登場人物(赤穂浪士

大石 内蔵助(おおいしくらのすけ)

お桐の摩羅蠟にかかるが、穴目銭十郎の急襲により術を逃れ、討ち入りに参加する。

奥野 将監(おくの しょうげん)

お琴のおんな灯心により、脱盟。

不破 数右衛門(ふわ かずえもん)

お琴のおんな灯心にかかるが、男根を切断し、術を逃れ、討ち入りに参加する。

進藤 源四郎(しんどう げんしろう)

お弓の歓喜天により、脱盟。

小山 源五左衛門(こやま げんござえもん)

大石内蔵助の伯父。山科会議で脱盟を宣言した進藤源四郎(歓喜天で入れ替わったお弓)に動揺し、脱盟。

矢頭 右衛門七(やとう えもしち)

歓喜天でお弓と入れ替わったお弓の性器を自傷し、術を逃れ、討ち入りに参加する。

高田 郡兵衛(たかだ ぐんべえ)

お杉の催眠術にかかり、遠縁の娘に手を出したところを娘の父に目撃され、婚姻せざるをえなくなり、脱盟。

田中 貞四郎(たなか さだしろう)

お梁の術にかかり、想い人を交合中に死なせてしまい、乱心し、脱盟。

毛利 小平太(もうり こへいた)

貧困により、身を売った赤穂浪士身内の五人の女を鞆絵に見せられ、変心。大石内蔵助を討とうとするが、本懐を遂げることを望んだ五人の女たちによって阻止され、脱盟。

登場人物(上杉家)

上杉 綱憲(うえすぎ つなのり)

米沢藩藩主。吉良上野介の長男。赤穂浪士の仇討ちを阻止するため、能登組忍者に暗殺を命じる。

千坂 兵部(ちざか ひょうぶ)

米沢藩家老。無明綱太郎と女忍者に能登組忍者による赤穂浪士暗殺の阻止と赤穂浪士を色仕掛けで堕落させ、仇討ちを阻止するよう命じる。

千坂 織江(ちざか おりえ)

千坂兵部の娘。上杉綱憲に目をかけられ、逃げ出したところを追手に追われるが、無明綱太郎に助けられる。おゆうに似ている。

登場人物(その他)

徳川 綱吉(とくがわ つなよし)

目掛けのおゆうと寝につこうとして、忍術で人間刺身となって死ぬおゆうを目の当たりにする。

浅野 内匠頭(あさの たくみのかみ)

松の廊下刃傷事件で、吉良上野介に斬りかかり、切腹

吉良 上野介(きら こうずけのすけ)

松の廊下の刃傷事件で、浅野内匠頭に斬られ、その後、赤穂浪士に討たれる。

俎 銀兵衛(まないた ぎんべえ)

大奥御前所の料理人。表御前所との料理試合に無明綱太郎の協力を仰ぐ。

おゆう(おゆう)

俎銀兵衛の娘。大奥の女中をしているところを無明綱太郎に見初められるが、将軍の目に留まり、目掛けになることを選ぶ。

感想

史実はそのままに、実は赤穂浪士の脱盟者の一部は能登くノ一の手にかかっていたという構成の巧みさと、くノ一の女性ならではの忍法の奇抜さが本書の魅力であると思う。個人的には、歓喜天と摩羅蠟が自分もかかりたいエロさで気に入った。大石内蔵助も摩羅蠟から逃れたことを惜しんでいたが、真面目な中に演出されるとぼけた感じも味わい深く、緩急が上手い。戦いの中、なぜか浪士側に入れ込んでしまうくノ一の唐突な純情さにも絶妙な可笑しみがある。そんなで、能登組忍者と能登組くノ一の暗躍が描かれていくのだが、みんな結構、あっさり死んでしまう。物語的には物足りない感じもしないでもないが、一瞬で勝負がつく忍者の達人性、非情さを表現しているのではないだろうか。中でも、抜群の強さを誇る無明綱太郎は主人公でありながら、闘いを見守る役に徹しており、あまり出てこないが、本気を出したら何が起こるだろうというワクワク感もたまらない。惚れた女の忠義は認めない彼が、赤穂浪士の忠義との対比になっているところも秀逸な構成で、唸るばかりだ。

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