忍法帖読書雑記

山田風太郎先生の忍法帖シリーズについて書きます

伊賀忍法帖

初出

週刊漫画サンデー」1964年4月1日号〜8月26日号連載

時代

永禄5年〜天正5年(1562〜1577年)

主な出来事

あらすじ

松永久秀は主の嫡男、三好義興の妻、右京太夫を自分のものにするため、果心居士の弟子、根来僧に惚れ薬の作ることになる。惚れ薬を作るには女性の愛液を必要とする。伊賀忍者、笛吹城太郎の妻、篝火が狙われ、殺されてしまう。笛吹城太郎は復讐を誓い、根来僧との戦いに身を投じていく。

登場人物

笛吹 城太郎(ふえふき じょうたろう)

伊賀鍔隠れの里の忍者。妻、篝火を根来僧に殺され、復讐する。

忍法:無息の術(むそくのじゅつ)

水中に数分潜り、波をたてずに移動する。

篝火(かがりび)

堺の遊女だったが、笛吹城太郎の妻となり、伊賀忍法を修得。上質の淫石が作れるため、根来僧に狙われる。

忍法:三日月剣(みかづきけん)

鋭利な手刀で剣のようにものを斬る。

果心居士(かしんこじ)

幻術師。松永久秀に根来僧を貸し、惚れ薬を作って、右京太夫を奪うよう唆す。

千 宗易(せんの そうえき)

平蜘蛛の釜を松永久秀に献上する。後の千利休

服部 半蔵(はっとり はんぞう)

初代服部半蔵。伊賀の首領で、笛吹城太郎の伯父。笛吹城太郎に使いを命じたら、一年間、帰ってこず、怒っている。

忍法:風閂(かざかんぬき)

ながい髪の毛を張り、触れた人間を切断する。

上泉 伊勢守 信綱(かみいずみ いせのかみ のぶつな)

剣聖と称される剣技の達人で、新陰流の祖。柳生新左衛門を買っている。

登場人物(根来僧)

果心居士の弟子。惚れ薬を作り、右京太夫松永久秀のものにしようと暗躍する。女を犯した際、大量の愛液を流させる術を全員身につけている。

風天坊(ふうてんぼう)

忍法、鎌がえし、枯葉がえしを使う根来僧。

忍法:鎌がえし(かまがえし)

鎌を投げ、獲物に命中しなければ、ブーメランのように手元に戻ってくる。

忍法:枯葉がえし(かれはがえし)

体を鎌のように折り曲げ、空を飛び、ブーメランのように元の場所に戻ってくる。

空摩坊(くうまぼう)

破軍坊と忍法、火まんじを使う根来僧。

忍法:火まんじ(ひまんじ)

自分の血で卍を描くと、青い炎が立ちのぼり、炎が流した血のあとをたどって、敵を焼く。

虚空坊(こくうぼう)

忍法、かくれ傘を使う根来僧。

忍法:かくれ傘(かくれがさ)

傘に人を閉じ込め、運び去る。人を攫う場合は、傘の内側にある鏡を見せ、事前に催眠術にかける。

羅刹坊(らせつぼう)

忍法、壊れ甕を使う根来僧。

忍法:壊れ甕(こわれがめ)

切断した人間を別の切断した人間と繋ぎ合わせ、生き返らせる。両人の血はまじり合い、生命力の強い方は、別人格を持った人間となり、他方は廃人となる。使用する針は人骨を削り出したもので、糸は女性の陰毛。同じ人間の切断も繋ぎ合わせることができる。

金剛坊(こんごうぼう)

忍法、天扇弓を使う根来僧。

忍法:天扇弓(てんせんきゅう)

投げた扇子から鋭い針を飛ばし、攻撃する。

破軍坊(はぐんぼう)

空摩坊と忍法、火まんじを使う根来僧。

忍法:火まんじ(ひまんじ)

自分の血で卍を描くと、青い炎が立ちのぼり、炎が流した血のあとをたどって、敵を焼く。

水呪坊(すいじゅぼう)

忍法、月水面を使う根来僧。

忍法:月水面(げっすいめん)

女性の経血で浸した紙を投げつけ、相手に強力に貼りつく。

登場人物(三好家)

三好 長慶(みよし ながよし)

畿内阿波国の大名。

三好 義興(みよし よしおき)

三好長慶の嫡男。

右京太夫(うきょうだゆう)

三好義興の妻。絶世の美姫。松永久秀に狙われる。

松永 弾正 久秀(まつなが だんじょう ひさひで)

三好家家老。信貴山城城主。右京太夫に惚れる。

漁火(いさりび)

松永久秀の妻。

柳生 新左衛門(やぎゅう しんざえもん)

大和国柳生の庄の主。松永久秀支配下にあるが、快く思っておらず、笛吹城太郎を助ける。上泉信綱に剣技の教えを請い、柳生石舟斎となる。

感想

甲賀忍法帖」が多vs多の構造を持つことの対比として「伊賀忍法帖」は1vs多であることが特徴的だ。お色気忍法はないものの、まず、冒頭の惚れ薬の作り方が強烈にエロくて、一気に惹きつけられる。その惚れ薬の作り方とは、女性の愛液を名器の釜で何度も煮詰め、滓を大きくしていき、淫石を作る。その淫石で煮た茶を女性に飲ませ、その後、最初に見た男性が好きになるというもの。犯された女性はあまりの気持ちよさに10人に5人は死に、生き残っても狂人か廃人になってしまう衝撃。ギャグ漫画などで、惚れ薬による騒動など、よく見るが、本作の惚れ薬は作り方がエグすぎて、ここまでやれば本当に惚れ薬ができそうな説得力、ドキドキ感がある。振り返ると、笛吹城太郎の忍法は、実は、水中で気配を悟られずに移動する「無息の術」しかなく、妙に地味ではあったが、物語としての展開がいくつもあり、根来僧の使う多彩な忍法で、全く飽きさせない。本作の史実との関わり方も秀逸で、東大寺の火災、松永久秀の最後など、細部不明の歴史の解釈として、非常にロマン深い。司馬遼太郎だって創作なのだから、忍法帖だって歴史小説と扱っていいじゃないのと思うのだ。

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