忍法帖読書雑記

山田風太郎先生の忍法帖シリーズについて書きます

甲賀忍法帖

初出

「面白倶楽部」(光文社)1958年12月号〜1959年11月号連載

あらすじ

400年に及び争い合っていた甲賀、伊賀は服部半蔵の不戦の約定により、和平を保ってきたが、徳川家康の命により、徳川三代目の後継ぎを甲賀忍者伊賀忍者10対10の決闘の勝者で決定することとなる。不戦の約定は破られ、甲賀、伊賀による壮絶な忍術合戦が始まった。

時代

慶長19年(1614年)

主な出来事

なし

登場人物(甲賀卍谷衆)

甲賀 弾正(こうが だんじょう)

甲賀卍谷衆頭領。口から毒針を吐き出す。かつてのお幻の恋人。

甲賀 弦之介(こうが げんのすけ)

見た者の殺意を跳ね返し、同士討ちまたは自身を攻撃してしまう瞳術を使う。甲賀弾正の孫。朧の恋人。

地虫 十兵衛(じむし じゅうべえ)

手足がないが、皮膚が蛇のような鱗状になっており、波状運動で高速移動する。体内に飲み込んだ一尺(30.3cm)ほどの槍を口から吐き出し、敵を貫く。

風待 将監(かざまち しょうげん)

蜘蛛人間。壁に貼り付くことができ、粘性の痰を吐く。四つ這いで走り、50里(195km)を一昼夜で駆ける。

霞 刑部(かすみ ぎょうぶ)

体毛がない大男。体色を自在に変え、壁や地面に溶け込み同化する隠形の術で身を隠し、怪力で敵を絞め殺す。

鵜殿 丈助(うどの じょうすけ)

太っているが、体全体が伸縮し、鞠のように転がったり、跳ねたりする。体より大きい隙間も伸縮により、すり抜ける。

如月 左衛門(きさらぎ さえもん)

泥で作った人の顔型に自分の顔をうずめると、その人の顔に変身する。声も同化させることができ、他人になりすまし、敵を騙し討つ。お胡夷の兄。

室賀 豹馬(むろが ひょうま)

盲目だが、夜のみ甲賀 弦之介と同じ瞳術を使うことができる。甲賀弦之介の師。

陽炎(かげろう)

情欲にかられると吐息が毒となり、触れた相手を死に至らす。

お胡夷(おこい)

肌と肌を合わせると離れなくなり、その状態で血を吸い、敵をミイラ化させる。如月左衛門の妹。

登場人物(伊賀鍔隠れ衆)

お幻(おげん)

伊賀鍔隠れ衆頭領。人声で鷹を操る。かつての甲賀弾正の恋人。

朧(おぼろ)

見たものの忍術を無効化する破幻の術を使う。お幻の孫。甲賀弦之介の恋人。

夜叉丸(やしゃまる)

女性の髪を撚り合わせ、獣油を塗った細い縄は十数メートル伸び、敵の皮膚を切り裂く。蛍火の恋人。

小豆 蠟斎(あずき ろうさい)

手足をあらゆる方向へ伸縮させ、触れたものを刃物のように切り飛ばす。

薬師寺 天膳(やくしじ てんぜん)

不死の能力により、死んでも蘇る能力を持つ。170年以上、生き続けている旨の描写があり、寿命も常人より長いか、無いものと思われる。

雨夜 陣五郎(あまよ じんごろう)

なめくじ人間。塩に溶け、体を縮小させ、身を隠し、敵を狙うが、そのまま水分を得られないと溶け死ぬ。

筑摩 小四郎(ちくま こしろう)

吸息により、真空を作りだし、触れたものを内部から切り刻む。大鎌を武器とする。

蓑念鬼(みの ねんき)

全身が毛に覆われていて、その体毛を自由自在に動かし、あらゆるものに巻きつけ、攻撃する。体毛を針のように硬化させ、敵を刺し貫くこともできる。棒術の使い手。

蛍火(ほたるび)

蛇や蝶など、爬虫、昆虫を自在に操る。夜叉丸の恋人。

朱絹(あけぎぬ)

全身の毛穴から血を噴き出し、血の霧で敵の目をくらます。

登場人物(その他)

徳川 家康(とくがわ いえやす)

73歳。豊臣攻略は目前だが、高齢のため、世継ぎに頭を悩ます。

竹千代(たけちよ)

のちの徳川家光。国千代の兄だが、どもりがあり、ぼんやりしているところがある。伊賀が勝つと三代目徳川将軍になる。

国千代(くにちよ)

のちの徳川忠長。竹千代の弟だが、兄より愛らしく、利発。甲賀が勝つと三代目徳川将軍になる。

江与の方(えよのかた)

徳川秀忠の御台所(正室)。国千代、竹千代の母。国千代派。

阿福(おふく)

のちの春日の局。竹千代の乳母。

服部半蔵(はっとり はんぞう)

二代目服部半蔵甲賀、伊賀の忍者一族を支配におく頭領。徳川家康の家臣。

感想

再読して、登場人物と忍術についてまとめたが、改めて面白かったのは、現実離れした忍術について、事実に基づく(ような?)詳細な説明により、ある種のリアリティを持たせていることである。例として、朱絹の全身から血を噴き出す術にの説明を引用する。

古来、人間の皮膚に生ずるウンドマーレーと呼ぶ怪出血現象がある。なんの傷もないのに、目、頭、胸、四肢からふいに血をながすものであって、ある種の精神感動が血管壁の透過性を昂進させ、血球や血漿が血管壁から漏出するのだ。思うに、この朱絹は、この怪出血現象を意思的にみずから肉体に起こすことを可能とした女であったに相違ない。

ウンドマーレー!?なんだかよく分からないけれど、妙な説得力にワクワクしないだろうか。(ちなみに、山風のお父様は医者で、当人も医大卒)奇想天外な発想に驚嘆し、さらにこれらを一切出し惜しむことなく、次々と退場させてしまう潔さ。どちらの術が優れているかではなく、戦う相手との相性によって、勝敗が決まるスリル。一作目からこんなに完成度の高い作品を作ってしまって、大丈夫かと心配になるほど面白いので、未読でシリーズに興味のある方には、ぜひ最初に手にとって欲しい作品である。

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