初出
「岩手日報」ほか 1962年10月23日~1964年2月4日 「尼寺五十万石」として連載
時代
寛永19〜20年(1642〜1643年)
主な出来事
あらすじ
会津藩主、主加藤明成の暴虐により、家臣、堀主水の一族が会津七本槍に惨殺された。生き残った七人の女たちは、柳生十兵衛の力を借り、仇を討とうとする。
登場人物
柳生 十兵衛 三厳(やぎゅう じゅうべえ みつよし)
剣聖、柳生但馬守の嫡男。沢庵宗彭の依頼で、堀一族の女たちの仇討ちに手を貸す。
沢庵 宗彭(たくあん そうほう)
千姫から堀一族の女たちの仇討ちについて、相談を受ける。
天樹院 千姫(せんひめ)
二代将軍、徳川秀忠の長女。豊臣秀頼の妻。大阪城落城後、徳川方に帰ったが、姿を消していた。会津七本槍による東慶寺の尼虐殺を仲裁し、堀一族の女たちの復讐を遂げさせようとする。
天秀尼(てんしゅうに)
南光坊 天海(なんこうぼう てんかい)
「黒衣の宰相」と呼ばれる神秘の大僧正。
おとね(おとね)
古河本陣、紙屋五郎右衛門の娘。江戸から会津に戻る加藤明成に見初められ、拐われるが、沢庵に助けられ、同行する。
登場人物(会津藩)
加藤 式部少輔 明成(かとう しきぶしょう あきなり)
会津藩藩主。父、加藤嘉明から跡を継ぐが、出来がわるい。屋敷に「雪地獄」「花地獄」と呼ばれる男女を監禁し、淫虐する部屋を隠し持つ。
堀 主水 綱房(ほり もんど つなふさ)
加藤嘉明の代から加藤家に仕えていたが、加藤明成の非道に異を唱え、出奔。高野山に入っていたが、幕府が会津藩への引き渡しを許可したため、処刑される。
芦名 銅伯(あしな どうはく)
南北朝時代から会津を納めていた芦名氏の流れを汲む芦名衆の頭領。107歳。
忍法:なまり胴(なまりどう)
剣で斬られた瞬間、筋肉、血管、骨髄を鉛のごとく凝縮させ、刃を体に通さなくする。
幻法:夢山彦(ゆめやまびこ)
夢を鏡に放射し、第三者に見せる。
おゆら(おゆら)
芦名銅伯の娘。加藤明成の御国御前。
忍法:なまり胴(なまりどう)
芦名銅伯忍法と同じもの。不完全ではあるが、独学で会得した。
庄司 甚右衛門(しょうじ じんえもん)
吉原の創業者。形成屋、西田屋の主人。加藤明成に遊女を売り渡している。
登場人物(会津七本槍)
芦名衆から選抜された加藤明成の親衛隊。
具足 丈之進(ぐそく じょうのしん)
三匹の秋田犬、天丸、地丸、風丸を操る猛獣使い。
鷲ノ巣 廉助(わしのす れんすけ)
巨漢の拳法使い。東慶寺の門を突きと蹴りで穴を開けてしまうほどの力を持つ。
大道寺 鉄斎(だいどうじ てっさい)
鎖鎌の使い手。真っ白な髭と髪の老人。
司馬 一眼房(しば いちがんぼう)
棒から十数メートルのびる皮鞭の使い手。隻眼の坊主。
香炉 銀四郎(こうろ ぎんしろう)
魔香を焚きしめた人の髪でできた霞網を使う。美少年。
平賀 孫兵衛(ひらが まごべえ)
槍術使い。馬2頭を槍で串材しにして、持ち上げられるほどの怪力。
漆戸 虹七郎(うるしど こうしちろう)
隻腕の剣士。
登場人物(堀一族の女)
お千絵(おちえ)
堀主水の娘、19歳。大名の姫君のように気品があって優雅な乙女。
お沙和(おさわ)
堀主水の弟、多賀井又八郎の妻、30歳。情愛のふかいまなざしをしている。
さくら(さくら)
堀主水の弟、真鍋小兵衛の娘、17歳。美少年にみまがうばかりの颯爽たる娘。
お圭(おけい)
堀家家臣、稲葉十三郎の妻、25歳。典雅で、しとやかで、りんとしている。
お品(おしな)
堀家家臣、金丸半作の妻、27歳。色白で、色気がある。
お鳥(おとり)
堀家家臣、板倉不伝の娘、20歳。ふとって。ほがらかで、ユーモアがある。
まんじ飛び(まんじとび)
二頭の馬の騎乗者がそれぞれジャンプして、馬を入れ替える技。お鳥は、馬で練習し、駕籠で実践した。
お笛(おふえ)
お千絵の婢、18歳。知恵のおくれたところがあるが、純真猛烈。
感想
「魔界転生」「柳生十兵衛死す」に続いていく柳生十兵衛三部作の一作目となる作品。初出に記載したとおり、元は「尼寺五十万石」だったタイトルが「柳生忍法帖」に変わっている。忍法帖でないものが、忍法帖になったわけだが、芦名銅伯がほんの少し忍法を使うのみで、それ以外の忍者、忍法は全く出てこないので、非常に忍法帖らしくない。忍法帖なら知名度があるから、売れるだろうみたいな大人の事情だろうか。タイトルが変わった経緯も気になるところではある。物語は仇討ちというシンプルなものであるが、加藤明成という暴虐の限りを尽くす極悪人と会津七本槍という武芸の達人に対して、親や夫を殺されたか弱い女たちが健気に仇を討つという設定が上手い。悪い奴ほど憎たらしく、虐げられる者は応援したくなるもので、痛快さが際立つ。そんな女たちに手を貸す柳生十兵衛の強さも魅力的で、カッコいい。カッコよすぎて、モテてしまうのだが、一歩引き、簡単に心を許さないところもまた男前だ。忍者が出てこないので、トンデモ忍術に驚かされる楽しみはないが、主要人物が死なず、ハッピーエンドな結末を迎える展開も珍しく、興味深い。忍法帖シリーズにおける忍者は大体死ぬので、忍者=儚いというイメージが強くあるが、忍者でないから、死なせなかったのだろうか。ひたすらに勧善懲悪を追求した面白さがある。そういう意味では読みやすいのだが、加藤明成が変態すぎて、エロいのグロいのに関して相当なエグさがあるので、これも誰にもオススメできるかというと、そんなことはない。しかし、侘び寂びを感じさせる終わり方も美しく、名作であることは間違いない。
関連作品
柳生忍法帖 上
原作本、上巻。柳生忍法帖 下
原作本、下巻。くノ一忍法帖 柳生外伝 江戸花地獄篇 小沢仁志監督による劇場版。未公開シーンを加えたDVD版は2作品に分割。
くノ一忍法帖 柳生外伝 会津雪獄篇 江戸花地獄篇の続き。原作はくノ一は全く出てきていないんだが、大丈夫だろうか。