忍法帖読書雑記

山田風太郎先生の忍法帖シリーズについて書きます

忍法八犬伝

初出

週刊アサヒ芸能」1964年5月3日号〜11月29日号連載

時代

慶長18〜19年(1613〜1614年)

主な出来事

なし

あらすじ

里見家に代々伝わる八顆の珠が盗まれた。期日に将軍家に献上できなければ、里見家は取り潰しになってしまう。八犬士の息子たちは村雨姫を救うため、服部半蔵率いる伊賀くノ一衆との珠取り合戦を開始する。

登場人物(老八犬士)

里見家老臣。初代里見家、里見義実に従って戦った八人の勇士の末孫。里見家に伝わる八つの珠をそれぞれが持ち、八房という名の白い巨大な犬を連れている。珠を盗まれると、自害し、珠の奪還を子に託した。

犬塚 信乃(父)(いぬづか しの)

「考」の珠を「弄」の珠にすり替えられる。

犬飼 現八(父)(いぬかい げんぱち)

「信」の珠を「淫」の珠にすり替えられる。

犬川 壮助(父)(いぬかわ そうすけ)

「義」の珠を「戯」の珠にすり替えられる。

犬山 道節(父)(いぬやま どうせつ)

「忠」の珠を「惑」の珠にすり替えられる。

犬田 小文吾(父)(いぬた こぶんご)

「悌」の珠を「悦」の珠にすり替えられる。

犬江 親兵衛(父)(いぬえ しんべえ)

「仁」の珠を「狂」の珠にすり替えられる。

犬坂 毛乃(父)(いぬさか けの)

「智」の珠を「盗」の珠にすり替えられる。

犬村 角太郎(父)(いぬむら かくたろう)

「礼」の珠を「乱」の珠にすり替えられる。

登場人物(八犬士)

甲賀卍谷での修行をサボり、放蕩していたが、村雨の説得で、八顆の珠を取り返しにいく。

犬塚 信乃(子)(いぬづか しの)

幼名は小信乃。修行放棄後、女装の軽業師となる。「弄」の珠と犬塚信乃の名を父より受け継ぐ。

忍法:くノ一だまし(くのいちだまし)

女になりきり、くノ一を誘惑する。

犬飼 現八(子)(いぬかい げんぱち)

幼名は現五。修行放棄後、西田屋の女郎屋者になる。「淫」の珠と犬飼現八の名を父より受け継ぐ。

忍法:陰武者(かげむしゃ)

交合中に男根の皮を女性器の中に残すと、皮が女性器を刺激し続け、女は間断ない恍惚状態に陥り、男のいうことを何でも聞いてしまう。

犬川 壮助(子)(いぬかわ そうすけ)

修行放棄後、江戸山四郎という名の狂言作家になる。「戯」の珠と犬川壮助の名を父より受け継ぐ。

犬山 道節(子)(いぬやま どうせつ)

修行放棄後、香具師となる。「惑」の珠と犬山道節の名を父より受け継ぐ。

犬田 小文吾(子)(いぬた こぶんご)

幼名は大文吾。修行放棄後、乞食になる。「悦」の珠と犬田小文吾の名を父より受け継ぐ。

犬江 親兵衛(子)(いぬえ しんべえ)

幼名は小兵衛。修行放棄後、野ざらし組となる。「狂」の珠と犬江親兵衛の名を父より受け継ぐ。

忍法:地屏風(ちびょうぶ)

縦横の感覚を逆転する錯覚を見せる。

犬坂 毛乃(子)(いぬさか けの)

修行の放棄後、盗賊になる。「盗」の珠と犬坂毛乃の名を父より受け継ぐ。

忍法:摩羅蝋燭(まらろうそく)

交合中に切断した男根を燃やし、生じた影を自在に操る。

犬村 角太郎(子)(いぬむら かくたろう)

幼名は円太郎。修行放棄後、軍学者として、小幡勘兵衛景憲の弟子となる。「乱」の珠と犬村角太郎の名を父より受け継ぐ。

忍法:肉彫り(にくぼり)

人間の顔を刻み、切り貼り、削り、こねまわして、別の人間の顔をつくる。一度、肉彫りで変えた顔は元に戻らない。

登場人物(伊賀くノ一衆)

服部半蔵の命で里見家の八顆の珠を盗む。その後、江戸山四郎から踊りを習い、女かぶきとして豊臣家に潜入しようしていたが、八犬士の宣戦布告を買い、対決する。

船虫(ふなむし)

「義」の珠をもつくノ一衆のリーダー。犬田小文吾に左眼を潰され、眼帯をしている。

玉梓(たまずさ)

「礼」の珠をもつくノ一。

朝顔(あさがお)

「悌」の珠をもつくノ一。

夕顔(ゆうがお)

「智」の珠をもつくノ一。

吹雪(ふぶき)

「考」の珠をもつくノ一。

椿(つばき)

「忠」の珠をもつくノ一。

忍法:天女貝(てんにょがい)

交合中に女性器の筋肉を収縮させ、男根を鬱血させ、壊死させる。

左母(さも)

「仁」の珠をもつくノ一。壁に垂直に立つことができる。油を撒き、炎を操る。

牡丹(ぼたん)

「信」の珠をもつくノ一。

忍法:袈裟御前(けさごぜん)

交合中に男根を薄膜で覆うと、薄膜が男根を刺激し続けるが、薄膜により射精を遮られ、男は悶絶し、逆流した精液を口から吐いて死ぬ。

登場人物(里見家)

里見 安房守 忠義(さとみ あわみのかみ ただよし)

徳川家家臣。安房領主。人望は薄く、八犬士からは馬鹿にされている。

村雨(むらさめ)

里見忠義の妻。珠を取り返すために、ひとりで八犬士を探しにいく。

印藤 采女(いんどう うねめ)

里見家家老。八顆の珠をりんの玉にして、女芸者と里見忠義を遊ばせ、珠を盗まれる。

正木 大膳(まさき たいぜん)

里見家家老。

滝沢 瑣吉(たきさわ さきち

犬山道節(父)の若党。老八犬士の息子たちを呼び戻すために甲賀卍谷へ行く。

登場人物(徳川家)

徳川 秀忠(とくがわ ひでただ)

徳川二代目将軍。

竹千代(たけちよ)

徳川秀忠の嫡男。後の徳川家光。里見家の八顆の珠を欲しがる。

本多 佐渡守 正信(ほんだ さどのかみ まさのぶ)

徳川家家臣。里見家から八顆の珠を盗むよう服部半蔵に命令する。大阪攻めに反対する大久保相摸守を排除したい。

服部 半蔵(はっとりはんぞう)

徳川家家臣。二代目服部半蔵本多正信から里見家の八顆の珠を盗むよう命令される。

忍法:外縛陣(げばくじん)

内部から外部への逃走をさまたげる陣をはる。

忍法:内縛陣(ないばくじん)

外部から内部への侵入をふせぐ陣をはる。

忍法:陰舌(いんぜつ)

竹筒を女の口に咥えさせ、口を犯すと恍惚状態となり、上の口と下の口が入れ替わり、女性器が何でもしゃべってしまう。

大久保 相摸守 忠隣(おおくぼ さがみのかみ ただちか)

徳川家家臣。小田原領主。孫娘が里見忠義の妻。

小幡 勘兵衛 景憲(おばた かんべえ かげのり)

軍学者織田有楽斎を通じ、徳川家の間者として、豊臣家に仕える。

登場人物(その他)

織田 有楽斎(おだ うらくさい)

豊臣家家臣。織田信長の弟。服部半蔵と内通している。

向坂 甚内(こうさか じんない)

風摩忍者。犬坂毛乃の盗賊の師匠。忍法、摩羅蝋燭を犬坂毛乃に伝授する。

お蛍(おけい)

甲賀卍谷の忍者。犬江親兵衛に忍法、地屏風を伝授する。

感想

本作は「南総里見八犬伝」のパロディで、八犬士の末裔が主人公である。主人公が8人もいると、冷徹無比に死んでいきそうだが、それぞれ人間味のある人物に描かれているのが面白い。まず、八犬士は忍者修行を放棄した放蕩者で、父の遺言には耳もかさなかったのに、惚れた村雨姫のためにあっさりと命を投げだして、戦いに身を投じていく純情が熱い。しかも、8vs8と見せかけて、みんな勝手に戦いにいって死ぬというチームワークのなさにもグッとくる。村雨姫も可憐、猪突猛進のおてんばぶりが魅力的で、この八犬士の命がけにも、なかなかの説得力がある。私は、漫画「北斗の拳」の雲のジュウザを思い出したのだけれども、トンデモ忍法のせいで、ジュウザvsラオウが8回あるというわけではないものの、戦いに赴くまでの過程には、近いエッセンスがあると思う。他人から同意を得られたことはないが、「北斗の拳」が好きで本書を未読の方、おられましたら、ぜひ読んでみてください。トンデモ忍法のせいでと書いたが、命がけの戦いの中に摩羅蝋燭、袈裟御前、陰舌など、突拍子もない下ネタ忍法を平然とぶちこんでくる面白さも本作の魅力だ。事件の発端も膣の中で鈴を鳴らす女芸者の登場によるもので、いい意味で実にくだらない。オチも綺麗にハマっていて、本当によくこんなこと考えつくよなあと感動さえ覚える。山風の奇才さを存分に感じられる作品であろう。

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