忍法帖読書雑記

山田風太郎先生の忍法帖シリーズについて書きます

くノ一忍法帖

初出

「講談倶楽部」1960年9月号〜1961年5月号連載

時代

元和元年〜元和2年(1615〜1616年

主な出来事

あらすじ

大阪夏の陣で豊臣家は滅びたが、真田幸村の知略により、くノ一五人が豊臣秀頼の子胤を残していた。徳川家康は、孫、千姫の侍女として、くノ一が潜伏していることを知り、伊賀忍者を集め、暗殺を命じる。

登場人物(信濃くノ一衆)

真田幸村の命で、豊臣秀頼の子胤を宿したくノ一。蛇まといの秘法、水つぼの術を使用し、妊娠した。(秘法の詳細は不明)

お奈美(おなみ)

忍法、月ノ輪を使う信濃くノ一。

忍法:月ノ輪(つきのわ)

経血をつけると洗っても消せない印となる。

お瑤(およう)

忍法、筒涸らし、天女貝を使う信濃くノ一。

忍法:筒涸らし(つつからし

交合中に男の精と血を吸いとり、絶命させる。術者の命令を聞かせ、復命後に死なせることもできる。

忍法:天女貝(てんにょがい)

交合中に女性器の筋肉を収縮させ、男根が抜けなくなる。

お喬(おきょう)

忍法、天女貝を使う信濃くノ一。

忍法:天女貝(てんにょがい)

交合中に女性器の筋肉を収縮させ、男根が抜けなくなる。

お由比(おゆい)

忍法、夢幻泡影を使う信濃くノ一。

忍法:夢幻泡影(むげんほうよう)

女陰から泡を飛ばし、泡に包まれると精神状態が胎児となる幻覚をみる。元に戻るのに10日かかる。

お眉(おまゆ)

忍法、幻菩薩、やどかり、羅生門を使う信濃くノ一。薄い氷の上を歩くことができる。

忍法:幻菩薩(まぼろしぼさつ)

普賢菩薩を置き、男性に裸の女性の幻覚を見せ、発狂させる。女性には効果がない。

忍法:やどかり(やどかり)

口移しで胎児を相手の体内に移動させる。

忍法:羅生門(らしょうもん)

交合中に胎児が男根を掴み、体を離れられなくする。

登場人物(伊賀鍔隠れ衆)

服部半蔵の命で、千姫の侍女に紛れた信濃くノ一を千姫に悟られないよう暗殺しようとする。

鼓 隼人(つづみ はやと)

忍法、百夜ぐるまを使う伊賀忍者

忍法:百夜ぐるま(ももよぐるま)

心の影を操り、本人とは別に行動することができる。他人の心の影も切り離し、自在に操ることができる。

七斗 捨兵衛(しちと すてべえ)

忍法、肉鞘、人鳥黐を使う伊賀忍者。巨体だが、薄い氷の上を歩くことができる。

忍法:肉鞘(にくざや)

膠着力の高い精液を皮膚に塗ると、皮となり、拘束された際、脱ぎ捨てることができる。

忍法:人鳥黐(ひととりもち)

忍法、肉鞘と同じ性質の精液を障子などのものに塗り、鳥黐のように使う。

般若寺 風伯(はんにゃじ ふうはく)

忍法、日影月影を使う伊賀忍者。周囲の人の心音の数を数えることができる。阿福に惚れている。

忍法:日影月影(ひかげつきかげ)

催淫薬を塗った吹針で女を発情させ、口移しでもうひとりの自分を体内に吹き入れると、体を乗っ取り、自在に操ることができる。

雨巻 一天斎(あままき いってんさい)

忍法、穴ひらき、恋しぐれを使う伊賀忍者

忍法:穴ひらき(あなひらき)

一度、交合すると、女がさかりのついた牝犬のように術者の男に夢中になり、もう一度、交合すると死ぬ。

忍法:恋しぐれ恋しぐれ

精をあびせると、女の肌が精を吸収し、忍法、穴ひらきがかかった状態になる。女は術者の男を求めて、恋しぐれをあびた場所に戻ってくる。

薄墨 友康(うすずみ ともやす)

忍法、くノ一化粧を使う伊賀忍者

忍法:くノ一化粧

催淫薬を塗った吹針で女を発情させ、女陰から精を吸収し、その女性の姿になる。

登場人物(徳川家)

徳川 家康(とくがわ いえやす)

徳川家初代将軍。

徳川 秀忠(とくがわ ひでただ)

徳川家二代目将軍。

服部 半蔵 正成(はっとり はんぞう まさなり)

徳川家家臣。二代目服部半蔵

服部 源左衛門 正就(はっとり げんざえもん まさなり)

二代目服部半蔵正成の一子。三代目服部半蔵。配下が叛乱を起こし、逐電。汚名挽回のため、大阪城に潜入し、豊臣家の動向を探っている。

服部 半蔵 正重(はっとり はんぞう まさしげ)

二代目服部半蔵正成の二子。四代目服部半蔵。妻の父、大久保長安の逆謀により、改易。

服部 半蔵 正広(はっとり はんぞう まさひろ)

二代目服部半蔵正成の三子。五代目服部半蔵。劇中の服部半蔵はこの人。徳川家康の命で、伊賀鍔隠れ衆五人を招集する。

忍法:内縛陣(ないばくじん)

外部から内部への侵入をふせぐ陣をはる。

忍法:外縛陣(げばくじん)

内部から外部への逃走をさまたげる陣をはる。

吉田修理介(よしだ しゅりのすけ)

徳川家家臣。江戸に千姫の御殿を建築中。

阿福(おふく)

竹千代の乳母。のちの春日局

竹千代(たけちよ)

徳川家康と鷹狩にいく。のちの徳川家光

お志津(おしづ)

千姫の婢。薄墨友康の忍法、くノ一化粧にかかる。

胡蝶(こちょう)

徳川家侍女。薄墨友康の忍法、くノ一化粧にかかる。

桔梗(ききょう)

徳川家侍女。般若寺風伯の忍法、日影月影にかかる。

徳川 頼宣(とくがわ よりのぶ)

徳川家康の第十子。千姫に好意をもち、徳川家と対立する千姫をかくまう。

安藤 帯刀(あんどう たてわき)

徳川頼宣の老臣。

登場人物(坂崎家)

坂崎 出羽守(さかざき でわのかみ)

徳川家家臣。大阪夏の陣で、大阪城から千姫を救い、火傷を負う。口約束で千姫の婚約者となるが、千姫からは豊臣家への忠、徳川家康からは火傷の顔により、冷たくあしらわれる。

成瀬 十郎左衛門(なるせ じゅうろうざえもん)

坂崎家家臣。主人の使いで、千姫に会いにいき、行方不明となる。

戸田 坂内(とだ ばんない)

坂崎家家臣。主人の使いで、千姫に会いにいき、行方不明となる。

大友 彦九郎(おおとも ひこくろう)

坂崎家家臣。主人の使いで、千姫に会いにいき、行方不明となる。

莚田 忠兵衛(むしろだ ちゅうべえ)

坂崎家家臣。第2の使いとして、千姫に会いにいく。

黒沢 主膳(くろさわ しゅぜん)

坂崎家家臣。第2の使いとして、千姫に会いにいく。

関 主殿助(せき とのものすけ)

坂崎家家臣。第2の使いとして、千姫に会いにいく。

初音(はつね)

成瀬 十郎左衛門の妹。関主殿助の許嫁。男装し、第2の使いとして、千姫に会いにいく。

落合 閑心(おちあい かんしん)

坂崎家老臣。第3の使いとして、勝手に千姫に会いにいく。

登場人物(豊臣家)

豊臣 秀頼(とよとみ ひでより)

豊臣秀吉の子。豊臣家の主。大阪夏の陣で自害。

千姫(せんひめ)

豊臣秀頼の妻。徳川秀忠の娘。徳川家康の孫。大阪夏の陣後、徳川家に迎えられるが、豊臣家への忠を貫き、徳川家と敵対する。

真田 左衛門佐 幸村(さなだ さえもんのすけ ゆきむら)

豊臣家家臣。大阪夏の陣で討死。五人の信濃くノ一に豊臣秀頼の子胤を残すよう命じる。

才蔵(さいぞう)

真田家家臣。

丸橋(まるはし)

長宗我部盛親の妻。長宗我部盛親が阿福のいとこで、面識がある。豊臣方の夫の無念を晴らすため、徳川家康の命を狙っており、千姫とくノ一衆と協力関係を結ぶ。剛力無双、鎖鎌の達人。

感想

くノ一が主人公ということで、男女ともに性を扱った忍法が多いのが特徴的である。特に胎児を使う忍法「やどかり」「羅生門」は術者が妊婦でなければならず、本作を最も象徴する忍法だろう。奇抜さに驚き、しょうもなさに脱力させられる感覚は抜群だ。そんなくノ一忍法は突出してエロいということはなかったが、結構、グロい描写もある。忍法帖シリーズをみんなに読んでもらいたいと願ってやまない私であるが、万人にお勧めできるものではなかったなと心構えを改めた。忍者のように慎重に行動していきたい。また、本作は徳川家家臣の坂崎出羽守という人物が面白く、忍者以外にも見どころがある。坂崎は、大坂夏の陣で、炎上する大阪城から千姫を救ったものを千姫の婚約者にすると徳川家康に云われ、千姫を救うが、顔にひどい火傷を負ってしまう。すると、火傷のせいで、徳川家康は約束を守ってくれず、千姫も豊臣家への忠を曲げず、二人から避けられることに。さらに、婚約の件を千姫に訴えにいった部下たちが、くノ一衆にことごとく殺されてしまうという散々な目にあう。悲哀に、応援したくなるが、これ以外のことは特に何も起こらないところがクールだ。世は諸行無常なのである。やりたい放題ながらも、史実には沿うという律儀な忍法帖シリーズであるが、本作の「慶安の変」につながるラストは美しく、儚く、読後感も素晴らしいものであった。

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