忍法帖読書雑記

山田風太郎先生の忍法帖シリーズについて書きます

魔界転生

初出

「大阪新聞」ほか 1964年12月18日〜1966年2月24日 「おぼろ忍法帖」として連載

時代

寛永15年(1638年)〜正保3年(1646年)

主な出来事

あらすじ

島原の乱に敗れた森宗意軒は忍法、魔界転生で剣豪たちを復活させ、江戸幕府への復讐を目論む。柳生十兵衛を仲間にするために復活した魔界衆が勝負を挑み、対峙していく。

登場人物(柳生衆)

柳生 十兵衛 三厳(やぎゅう じゅうべえ みつよし)

柳生宗矩の長男だが、柳生谷に放逐させられた。森宗意軒に魔界転生の対象として狙われ、魔界衆と対決していく。愛刀は三池典太。

磯谷 千八(いそや せんぱち)

柳生十人衆の一人。

逸見 瀬兵衛(へんみ せへえ)

柳生十人衆の一人。

伊達 佐十郎(だて さじゅうろう)

柳生十人衆の一人。

北条 主税(ほうじょう ちから)

柳生十人衆の一人。

小栗 丈馬(おぐり じょうま)

柳生十人衆の一人。

戸田 五太夫(とだ ごだゆう)

柳生十人衆の一人。

三枝 麻右衛門(さえぐさ あさえもん)

柳生十人衆の一人。

小屋 小三郎(こや こさぶろう)

柳生十人衆の一人。

金丸 内匠(かなまる たくみ)

柳生十人衆の一人。

平岡 慶之助(ひらおか けいのすけ)

柳生十人衆の一人。

登場人物(魔界衆)

天草 四郎 時貞(あまくさ しろう ときさだ)

島原の乱の反乱軍の総大将。島原の乱で討死するが、魔界転生する。

忍法:髪切丸(かみきりまる)

交合中の女の髪を輪にしたものを投げ、輪にかけたものを切断する。

荒木 又右衛門(あらき またえもん)

柳生流の剣士。鍵屋の辻の決闘で仇討ちの助太刀をしたのち、死亡するが、魔界転生する。

田宮 坊太郎 国宗(たみや ぼうたろう くにむね)

柳生但馬守の弟子となり、剣術を学び、父の仇討ちを遂げる。肺結核で死亡するが、魔界転生する。

宮本 武蔵(みやもと むさし)

二天一流の剣豪。病死するが、存命中に剣技を活かせなかったことを後悔し、魔界転生する。

宝蔵院 胤舜(ほうぞういん いんしゅん)

宝蔵院流槍術の名手。転生した天草四郎時貞に敗北し、さらなる力を得るため、自死し、魔界転生する。

柳生 又右衛門 宗矩(やぎゅう またえもん むねのり)

柳生石舟斎の五男。徳川家に仕え、但馬守を任官。江戸柳生家の当主。剣術指南としてではなく、本来の力を奮いたいとの欲求から、魔界転生する。

柳生 兵庫 利厳(やぎゅう ひょうご としよし)

柳生石舟斎から新陰流を相伝し、尾張柳生家の礎を築く。現在は隠居し、如雲斎と号す。転生した柳生宗矩に敗北し、魔界転生する。

秘伝鎧通し(ひでんよろいどおし)

鐘のような厚い鉄を貫いて、先にあるものを刺す。

登場人物(倒幕軍)

由比 民部之介 正雪(ゆい みんぶのすけ しょうせつ)

森宗意軒の弟子となり、倒幕を計画し、のちに「慶安の変」を起こす。忍法帖シリーズとしては「くノ一忍法帖」のお由比と豊臣秀頼の子にあたる。

森 宗意軒(もり そういけん)

島原の乱の反乱軍の軍師。忍法、魔界転生で魔界剣豪軍団を率いる。

忍法:魔界転生

森宗意軒が西洋の魔術と日本の忍法を融合させ、独創した死人を生き返らせる術。森宗意軒の切断した指を女性の子宮に宿らせ、忍体とし、死期が迫り、復活を熱願する男性と交合すると、1ヶ月後に女性の全身を押し破り、男性が生前と同じ姿で復活する。

登場人物(キリシタンくノ一)

森宗意軒に仕えるキリシタンくノ一。

クララ お品(くらら おしな)

柳生十兵衛魔界転生させるために大納言の女狩りから逃げてきたふりを装い、助けてもらった柳生十兵衛一行について行く。

ベアトリス お銭(べあとりす おせん)

森宗意軒の使いで江戸から紀州へやってくる。

フランチェスカ お蝶(ふらんちぇすか おちょう)

柳生十兵衛魔界転生させるために敵討ち志願として柳生道場に弟子入りする。壁に消え隠れることができる。

登場人物(紀州藩

徳川 頼宣(とくがわ よりのぶ)

紀伊大納言。徳川家康の第十子、徳川秀忠の弟で、徳川家光の叔父。森宗意軒と手を組み、幕府を乗っ取ろうとする。

牧野 兵庫頭(まきの ひょうごのかみ)

紀州藩五百石の家臣。

木村 助九郎(きむら すけくろう)

紀州藩六百石の家臣。柳生石舟斎の四高弟のひとり。新陰流の達人。

田宮 平兵衛 重正(たみや へいべえ しげまさ)

紀州藩八百石の家臣。田宮抜刀流の創始者

関口 柔心(せきぐち じゅうしん)

少林寺拳法を学んだ柔術の達人。

お縫(おぬい)

田宮平兵衛の娘。紀州藩の女狩りにより、魔界転生の忍体候補となる。

おひろ(おひろ)

関口柔心の娘。紀州藩の女狩りにより、魔界転生の忍体候補となる。

お雛(おひな)

木村助九郎の孫。紀州藩の女狩りにより、魔界転生の忍体候補となる。

関口 弥太郎(せきぐち やたろう)

関口柔心の息子、おひろの弟。柳生十兵衛から密書を託され、江戸に向かう。タ助、ハヤ助、ドン助という犬を連れている。

登場人物(根来衆

紀州藩に仕える根来忍者衆。三十人が牧野兵庫頭の命で動いている。

切目坊(きりめぼう)

根来忍者衆の一人。

一印坊(いちいんぼう)

根来忍者衆の一人。

阿西坊(あさいぼう)

根来忍者衆の一人。

可心坊(かしんぼう)

根来忍者衆の一人。

鉄心坊(てっしんぼう)

根来忍者衆の一人。

戒岳坊(かいがくぼう)

根来忍者衆の一人。

水炎坊(すいえんぼう)

根来忍者衆の一人。

登場人物(その他)

松平 伊豆守 信綱(まつだいら いずのかみ のぶつな)

幕府老中。江戸から島原の乱の討伐軍として活躍。出府しようとする徳川頼宣を止めにくる。柳生十兵衛と懇意。

感想

この作品の元々のタイトルは「おぼろ忍法帖」であったが、映画「魔界転生」にあわせて改変されている。「おぼろ忍法帖」もカッコいいが、「魔界転生」もスティーブン・セガールの映画、沈黙シリーズに1作品だけ紛れる「暴走特急」のようなクールさがある。忍法帖シリーズではあるものの、出てくる忍法はタイトルにもなっている「魔界転生」と他1コ「髪切丸」のみで、忍法合戦の物語ではないのだが、一ヶ月の妊娠期間から女性の全身を押し破って、死者が復活するという忍法、魔界転生インパクトは突出している。この怪しい魔界衆の復活を上巻をほぼまるまる使って描くワクワク感は贅沢そのもので、「地獄篇第一歌」というタイトルもスリリングだ。この敵方のひとり、由比正雪忍法帖シリーズの「くノ一忍法帖」のくノ一、お由比の子どもであるというシリーズのリンクも熱く、グッとくる。(丸橋忠弥も名前だけ登場)そして、下巻は主人公である柳生十兵衛の活劇になるのだが、この柳生十兵衛がとにかくカッコいい。隻眼といえば、伊達政宗夏侯惇ハンニバル・バルカ、キャプテン・ハーロック、ニック・フューリー、スネーク・プリスケン、ネイキッド・スネークなど、錚々たる人物を連想するが、柳生十兵衛をベストオブ隻眼に推したい。無骨で、女好きだが、優しく、強く、頭もキレる。後半は前半の怪しさから一転して、柳生十兵衛の活躍、魅力をたっぷり堪能した。そんな真剣勝負の最中、暴走する徳川頼宣と云うことを聞かない魔界衆に翻弄される牧野兵庫頭のアホさ加減は涙が出そうなほど笑わせてくれて、緩急も素晴らしい。結局、魔界衆は柳生十兵衛に無理に関わらなければ、打倒幕府は上手くいったのじゃないだろうかと思えてきて、ガバガバな計画と行動によるオチの脱力感も秀逸。ベストオブ忍法帖シリーズとして挙がることが多く、山風も気に入っていると聞くので、絶対に読んでいただきたい作品である。

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